241Amによるプラスチックシンチレーター型放射線検知機の試験

241Amによるプラスチックシンチレーター型放射線検知機の試験


1. 試験の目的

241Am/10kBq(0.27µCi) の放射線源をチェックソースとして、PVT(ポリビニルトルエン)製のプラ スチックシンチレーター(検知機)が正常に反応し放射性物質として検出可能であることを検証する。

241Am のガンマ線は 59.5keV と非常に低エネルギーであることから、PVTを使用した検知機では 一般的に検出できないような印象を与えかねない為、これを払拭する目的で試験を行った。

(参考: 137Csは 662keV、60Coは 1,173keV の放射エネルギーをもつ。)
今回の試験では、三興倉庫株式会社殿 南大阪事業所泉北倉庫(泉大津市小津島町) に快く 試験場所をご提供いただき、テック・デル製検知機の実機にて実証試験を行う事ができた。
また、複数のメーカーおよび検知機のサイズでの試験を行うため、弊社所有のLudlum社製 ポール型放射線測定機(model 193-6)でも同様に実証試験を行った。

2. 理論上の線量当量率

計算上(理論値)では、241Am/10kBq が10cmの距離にあると 0.00529µ Sv/h の影響を受ける。

3. 放射性同位元素周期表 241Am (アイソトープ手帳より)

日本アイソトープ協会発行の同位元素周期表の 241Am の項を添付する。
放射性同位元素周期表 241Am

4. 試験内容

1) 実際に使用した 241Am チェックソース

実際に使用した 241Am チェックソース

2) 241Am の実効線量透過率 (アイソトープ手帳より)

線源から放射される光子は遮蔽体の質量や材質の厚さによって透過率が変化する。 光子エネルギーの極めて低い(59.5keV) 241Am は、通常の同位体より透過率が低くなる。 実際によくある材質の遮蔽体で、各厚さの場合にどの程度透過するかを表にしたものが以下である。

241Am の実効線量透過率

また、その透過率をグラフ化したものが以下である。
241Am の実効線量透過率 グラフ

5. ゲート型放射線検知機による実機試験

実際にゲート型放射線検知機へ、前述の 241Am よりガンマ線を放射させての試験を行った。

1) 試験環境データ

ゲート型放射線検知機 (車両通過型スクラップモニター)  TDR-36D / テック・デル社
試験場所 : 三興倉庫株式会社 南大阪事業所 泉北倉庫
試験日 : 平成28年6月3日 晴れ
試験線源 :241Am 10kBq (0.27µCi) 警報閾値: 0.006μSv/h

2) 試験結果

試験A 外部検知機の筺体外側面に貼付け(真近)での検出試験
結果 不検出
データ 0.0055μSv/h の上昇を確認 ( [最高]0.0362µSv/h – [BKG]0.0307µSv/h )
試験 B 外部筐体扉を開けた状態で検出面から10cmの距離での検出試験
結果 検出
データ 0.0066μSv/h の上昇を確認 ( [最高]0.0379µSv/h – [BKG]0.0313µSv/h )
試験 C 外部筐体扉を開けた状態で検出面から5cmの距離での検出試験
結果 検出
データ 0.0074μSv/h の上昇を確認 ( [最高]0.0356µSv/h – [BKG]0.0282µSv/h )
試験 D 外部筐体扉を開けた状態で検出面に貼付け(真近)での検出試験
結果 検出
データ 0.0107μSv/h の上昇を確認 ( [最高]0.0419µSv/h – [BKG]0.0312µSv/h )

3) 試験状況 (写真)

三興倉庫株式会社様 既設放射線検知機(全体図) TDR-36D / テック・デル
三興倉庫株式会社様 既設放射線検知機(全体図) TDR-36D / テック・デル
外部装置筐体外観 外部装置内部
外部装置筐体外観 外部装置筐体内部
試験 A (扉閉真近)
試験 A (扉閉真近) 試験 A (扉閉真近)
試験 B (扉開10cm)
試験 B (扉開10cm) 試験 B (扉開10cm)
試験 C (扉開5cm) 試験 D (扉開真近)
試験 C (扉開5cm) 試験 D (扉開真近)

4) プラスチックシンチレーター仕様 (特性表)

序文でプラスチックシンチレーターはPVT(ポリビニルトルエン)製であることを述べたが、実際に 使われているシンチレーターの特性表を添付する。 テック・デル製放射線検知機の検出部にはEJ200というプラスチックシンチレーターが使用 されており、機種によってサイズや枚数が使い分けられている。
今回、試験に使用させていただいた TDR-36D は、600mm x 600mm のシンチレーターを4枚使用 して4チャンネルモデルとして製品化している。
シンチレータ特性表EJ200

6. ポール型放射線測定機による実機試験

次にポール型放射線測定機へ、同様に 241Am よりガンマ線を放射させての試験を行った。

1) 試験環境データ

ハンディ型放射線測定機(ポール型サーベイメーター) model 193-6 / Ludlum社
試験場所: 株式会社ナニワプロジェックス (屋内)
試験日: 平成28年6月6日
試験線源:241Am 10kBq (0.27µCi)
警報閾値: 固定値 フルスケール10%

model 193-6

ハンディタイプの測定機(サーベイメーター)の中では、群を抜くハイスピードな反応をする機種。 検出部にプラスチックシンチレーターを採用。ポールの先に検知機があるので、離れた場所の 対象物も測定しやすい。実機は弊社所有機。 以下に仕様を添付する。

2) 試験結果

ゲート型の検知機とは違い測定機という性格上、反応には時間が必要(数十秒から1分)となる。 測定結果は上昇値ではなくBKG(バックグラウンド)を含めた数値となるためにBKG演算が必要。

測定 A

線源無しの状態での測定 (BKG)

測定値

0.053μSv/h (基準値)

アラームリセットボタン押下

測定 B

検出部から10cm離した状態での測定

測定値

0.058μSv/h

上昇値

0.005μSv/h の上昇を確認 (アラーム鳴動)

測定 C

検出部から1cm離した状態での測定

測定値

0.087μSv/h

上昇値

0.034μSv/h の上昇を確認 (アラーム鳴動)

測定 D

検出部に貼り付けた(真近)状態での測定

測定値

0.089μSv/h

上昇値

0.036μSv/h の上昇を確認 (アラーム鳴動)

測定距離について

この放射線測定機の検出部は2mm厚の金属製の筺体に入っており、内部には更にゴム製ガスケット
(1.5mm)と保護クッション(3.5mm)が検出部までに介在している。
これらの厚みは距離の算出から除外しているため、実際の検出面からの距離は表内の数値に+7mm
したものとなる。

3) 試験機 (写真)

ポール型サーベイメーター model 193-6 Ludlum社 ポール型サーベイメーター model 193-6 Ludlum社
試験機 (写真) ポール型サーベイメーター model 193-6 Ludlum社
測定 C (距離 1cm)
測定 C (距離 1cm)
測定中表示 (アラーム鳴動中)
測定中表示 (アラーム鳴動中)

7. 試験結果およびその結果から考察される結論

以上のような試験結果となった。この結果から次のようなことが結論付けられる。

プラスチックシンチレーターを使用して
241Am から放射されるガンマ線を捕えることは可能である

ただし、現実的な状況に目を向けるとなると、光子のエネルギーが極めて低いガンマ線は、比重の
大きい物質にぶつかり大部分が散乱して減衰し、もしくは遮蔽されて吸収される。
つまり、通常のスクラップ中に 241Am が紛れ込んでいると想定すると、そのガンマ線は放射されても大部分が運搬車両から外に漏れ出てこない(透過してこない)ことになる。
外に漏れ出てこない放射線を捕捉して検出することは、どのような材質の検知機をもってしても不可能であるので、危険度が充分に低い(放射能が小さい) 241Am については実際は検出が困難であるが、この場合検知機の材質による影響はない。
逆に危険度が高い 241Am については、この試験に於いて実証されたように光子の放射エネルギーが 低くてもプラスチックシンチレーターで検出可能であるので、大きく散乱した放射線も数多く受け 止める事ができる広い面積を持ったプラスチックシンチレーターを使用した検知機が、他の材質の 検知機と比べて不利ということはない。
実際に現在世界中に設置され運用されている同様の装置(車両通過型放射線検知機)に於ける検知機 のモデル数にせよ台数にせよ大部分が、無機結晶体を使用したものではなくプラスチックシンチ レーターを採用した装置であることからも推して知れるように、危険な放射性物質の検出という面に おいてはプラスチックシンチレーター検知機が他に劣るなどとは到底結論できない。

どうぞ安心して プラスチックシンチレーターを採用した放射線検知機 をお使いください。